去年の年末に合否が出てからこっち、会う方々から口々に「おめでとう」のお言葉を頂戴しています。ありがたいことです。そしてそのあと結構な割合で「このあとどうすんの?」とか「転職雑誌みてんでしょ?」とか言われるのですが、えっこれ私転職しないといけない流れなんですかね?一級建築士になるってそういうこと?
確かに私は一介のサブコンの図面描きなので一級建築士の肩書きは重たすぎるんですけれども、とりあえず今の会社は居心地が最高にいいし、今年から大殺界&天中殺に入るので、少なくともあと3年は今の会社でお世話になりたいところです。
それで最近、いろいろな方に一級建築士(特に製図)がいかに頭がおかしい常軌を逸した試験であるかを説明するのですが、建築士試験をかじっていない方々に製図試験の頭のおかしさ過酷さを口頭で伝えるのはなかなか困難だと分かってきました。
思い返せば私だって学科の試験の当日まで設計製図がどんな試験なのか知りませんでしたから、ましてや受験生でもなければ当然だろうと思います。そこで今回は、非受験生の方に向けて「一級建築士の製図の試験とは何をするものなのか」をプレゼンしたいと思います。
試験は10月中旬の日曜日、午前11時に始まって午後17時半に終わります。6時間30分一本勝負です。
製図試験当日の流れ
午前10時55分頃
試験監督官により裏返しの紙が4枚配られます。すなわち、(1)課題文A2、(2)下書き用紙A2、(3)作図用紙A2、(4)記述用紙A3です。6時間半のうちに(3)と(4)の2枚を書き上げて提出する、というのが試験の内容です。
午前11時 試験開始、課題文の読み込み(30分間)
試験開始のベルが鳴ったら、課題文を表に返します。ここには建築主つまり試験元の「この敷地にこんな建物が欲しいから設計して、こういう風に図面と記述に書いてプレゼンしてよ」というご要望が書いてあります。ので、まずはマーカーとか赤ペンとかでアンダーラインを引きながら読みます。ここで読み飛ばしや条件違反をすると落ちます。
午前11時30分〜 エスキス&中間チェック(2時間)
どんな建物を作るかを考えて、下書き用紙に描いていきます。具体的には、課題文の内容を整理して組み立てて図面の下書きをします。この作業を「エスキス」といいます。要するに建物を設計するということです。描いたら、課題文のご要望と合っているかをチェックします。ここで建築主のご要望を満たしていなければ落ちます。あと、建築基準法などの法律に違反しても落ちます。
ちなみに、一級建築士試験では大体3〜7階建てのビルを設計します。今年(R3年)は5階建てでした。5階建てのビルを2時間足らずで設計するというのが、この試験の頭がおかしい常軌を逸しているところです。やったけど。
午後13時30分〜 休憩(5分間)
私はエスキスが終わったタイミングで、休憩とリフレッシュを兼ねて生理現象をケアしていました。なお、トイレは一つの受験室内で一人ずつしか行けないので、他の人が戻ってきたタイミングを見計らう必要があります。小さめの居酒屋と同じシステムです。トイレから戻ってきたらエスキスをガン見しつつ(図面を早く描くにはエスキスをなるべく見ないほうがいいので暗記するため)、カロリーメイトゼリーを一つ流し込みます。ドラフティングテープを4枚千切って心を整え、製図板に作図用紙を貼りつけます。ここまでが休憩です。
午後13時35分〜 製図(2時間30分)
作図用紙にシャープペンシルで図面を描きます。今は令和ですが、昭和と同じく手描きです。内容は平面図3つ(1階、2階、3階の各平面図)と断面図1つ、合計4面です。未完成だと落ちますし、要求対象を描き落としても落ちます。
この、21世紀に手描き図面を要求してくるあたりもこの試験のなんか変なところです。CAD検定とかではパソコンとCADを使った試験が執り行われていますから、建築士だってやろうと思えばできるはずなんですが、なぜそうしないのか国交省。製図道具業界と癒着しているのであろうか(※個人の偏見です)。まあでも一級建築士を名乗るからには、紙とペンでサラッと建物を描けるくらいのスキルは持ち合わせていてもらいたいということなんだろうと思います。でも今どき手描きって。
途中、断面図を描き終えたら課題文をガン見(次に描くものを脳内シミュレーションするために)しつつ二つ目のカロリーメイトゼリーを摂食します。試験時間は6時間半もあるのに、最中の生理現象ケアがここまでままならないというのもこの試験の異常なところです。肉体の頑健さも求められますので、40代はこの点で若者よりも不利です。
午後16時5分〜 計画の要点(1時間)
図面が描けたら、もう一つのの提出物である「計画の要点」を書きます。これはいわゆる記述問題で、簡単な作文と建築の部分スケッチを書くものです。今年は5問出ました。これも未完成だと落ちます。内容が図面と整合していなくても落ちると言われています。
午後17時5分〜 最終チェック(25分間)
提出物2点セットが完成したら、書いた内容が課題文と合っているかをチェックします。
午後17時30分 試験終了
ベルが鳴ったら試験終了です。試験時間は6時間30分もあるのに一瞬で過ぎ去り、時間はぜんぜん足りず、試験監督官が作図用紙と記述用紙を回収していくのを呆然と眺めます。一年に一度しかない試験が終わり、達成感とか絶望感とか満足感とか諦念とかがじわじわと湧いてきます。あと、近くの席から女子のすすり泣きが聞こえてきたりして、何ともいたたまれない気分になったりします。みんな大金と膨大な時間を費やしてここにいるんだもんなあ。
というのが、一級建築士の設計製図の試験の流れです。非受験生の方にもこの試験がいかに過酷であるかが伝わっていれば幸いです。
試験の後
なお、資格学校に通学している場合は、試験後に学校へ直行して記述と製図の復元を行います。つまり、1時間かけた記述と2時間半かけた製図をもう一度書きおこすという地獄のようなイベントです。全部終わると21時とか22時になります。
そして地獄のような試験当日を乗り越えた受験生を待ち受けるのは、合格発表までの心休まらない日々です。試験は10月中旬、発表は12月下旬のクリスマス時期です。製図試験は学科のマークシート試験と違って採点が完全にブラックボックスなので、「受かっているか落ちているかが分からない」という地獄のようなまな板の上生活が2ヶ月半も続きます。
試験前も、試験中も、試験後も、全部つらい。これが頭がおかしい常軌を逸した一級建築士の製図試験です。これを乗り越えたんだから私偉いし、みんなも偉い。
ちなみに、ここに書いているのは私(というか総合資格)が想定した理想のタイムスケジュールです。一般的にはこんな時間でこんなことをやるよという目安、とお考えください。順番や時間は人によって違いますし、私の試験当日ももちろんこの通りには行きませんでした。製図試験当日のことはそのうち書きます。
「建築士試験をかじっていない方に「一級建築士の設計製図の試験」がどんなものかを説明する日記」への1件のフィードバック
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